大学の収益多角化が進まない理由
執筆 村松 功規(コントラン株式会社 代表取締役)
18歳人口の減少を背景に、大学・学校法人の収益をどう多角化するかという話をよく聞くようになりました。ただ、実際に調べようとすると、出てくるのは制度の説明と統計です。何が収益事業にあたるか、他大学がどれだけ実施しているか。そこまでは分かります。
分からないのは、自分の大学は何から手をつければいいのかです。
私は大学の外から来ました。USEN、ソニー、アマゾンジャパンで法人営業と新規事業をやってきて、Amazonでは文教営業部門を統括していました。いまは学校法人の中に入って、業務改善から産学連携まで関わっています。
その立場で見ていて、収益の多角化には必ず同じところで詰まる一点があると感じています。制度の話でも、アイデアの話でもありません。
収益の柱は、実質3つしかない
大学の収益構造を企業のPLとして見ると、特徴がはっきりしています。売上が学費と補助金に極端に集中していることです。事業会社なら真っ先に指摘される形です。
そこに柱を足そうとすると、現実的な選択肢は3つに絞られます。
- 産学連携・外部資金 — 共同研究、受託研究、寄附
- 大学発ベンチャー — 研究成果の事業化
- 社会人のリスキリング・リカレント教育 — 法人研修市場との接続
どれも新しい話ではありません。すでに多くの大学が着手していて、政策の後押しもあります。選択肢が分からなくて止まっているわけではないのです。
それでも進まないのは、担当者がいないから
3つのどれを選んでも、実行する人が要ります。産学連携なら企業と話す人、ベンチャーなら経営を見る人、リスキリングなら法人向けに売る人。
そして、その人はたいてい既存の業務を抱えたまま任されます。
ここが詰まるところです。新しいことをやる余白が、そもそも組織に無い。
余白が無い理由は、たいてい業務のつくりにある
私が実際に入った大学で、こういうものを見ました。
各部局へ配る予算執行の通知業務が、Excelマクロで動いていました。部局が増えたり制度が変わったりするたびに、マクロ本体を書き換えないと回らない作りです。そしてそれを作った職員は、すでに退職していました。
仕様は誰にも分からず、改修は止まり、担当者は毎年のように手作業で埋めていました。この大学で実際にどう作り替えたかは、大学のExcelマクロ依存からの脱却にまとめています。
これは極端な例に見えるかもしれませんが、程度の差はあれ、似た構造はどこにでもあります。特定の誰かの頭の中にしか無い手順が、事務の中核に残っている。その人は忙しく、その人が抜けると止まる。
この状態で「産学連携を強化しよう」と言っても、動かせる人がいません。新規事業は、それを載せる土台の上にしか立ちません。
だから順番がある
収益の多角化を、いきなり収益の話から始めないほうがいい、というのが私の見方です。
順番はこうなります。
- 日常業務から属人性を抜いて、時間の余白をつくる
- その余白を、攻めの側に配る
- 得た収益と知見を、教育・研究に戻す
遠回りに見えますが、1を飛ばして2から始めた取り組みが、担当者の異動で止まるのを何度か見ています。人が代わっても続く形になっているかどうかが、収益事業が根づくかどうかを決めています。
どこから手をつけるかの判断
では最初にどの業務を触るか。私は3つの条件で見ています。
毎年必ず発生するか。 単発の業務を効率化しても、余白は生まれません。年次で必ず回ってくるものほど効きます。
作った人が説明できるか。 説明できる人がいるうちに手を入れるほうが、圧倒的に速い。退職を待ってから着手すると、解析から始めることになります。
変更が毎年入るか。 制度や部局が変わるたびに手を入れている業務は、その改修に一番時間を取られています。逆に言えば、そこを直すと余白が一番大きく出ます。
この3つが重なる業務は、たいてい各大学に数個あります。そこを1つ片づけるだけで、動ける人が1人生まれます。
収益化は、目的ではなく手段
最後に、言葉について。
大学関係者と話していると、「収益化」という言葉そのものに抵抗がある方は少なくありません。教育機関が利益を追うのか、という感覚だと思います。
私は、大学の収益多角化を株主価値の最大化とは別のものだと考えています。地域の知の拠点として存続すること、研究成果を社会に出すこと、そのリターンを教育と研究に戻すこと。そのための循環をつくる話です。
そして循環をつくるには、回す人の手が空いている必要があります。業務改善は、その入口にあります。
コントランでは、大学の生成AI研修・業務改善・産学連携の支援を行っています。何から手をつけるかが決まっていない段階でも構いません。
