大学や学校の事務の仕事は、「どこに書いてあったか」を探すところから始まることが多いです。規定を確かめたい。システムの操作が分からない。前任者の引き継ぎ資料のどこかにあったはず。調べる時間ではなく、探す時間が、積み重なると大きい。
この「探す」は、生成AIで「聞く」に置き換えられるようになりました。ある私立大学では、財務会計の規定と財務会計システムのマニュアルをほぼすべて読み込ませて、探す代わりに聞けば該当箇所が返る形にしています。詳しくは財務会計の規定・マニュアル検索チャットボットの構築に書きました。
ここでよく聞かれるのが、「そこまで作り込まなくても、Gemini Notebook(旧NotebookLM)でできるのではないか」という質問です。先に結論を書くと、標準の機能で十分な場合は、実際にあります。 構築が要るかどうかは、ツールの性能ではなく、運用の条件で決まります。どこで分かれるかを書きます。
標準の機能で足りる場合は、ある
Gemini Notebook(2026年7月にNotebookLMから改称されました。検索ではまだ旧名称で打たれることが多いので併記します)は、手元の資料を読み込ませて、その資料の範囲で質問に答えさせるツールです。Googleワークスペースを導入していて、管理者の設定で利用できるようになっている大学・学校なら、新しい仕組みを構築しなくても、いまの環境で試せるのが最大の強みです(利用の可否や対象アカウントは、組織の管理者設定によります)。
私たちが大学職員向けに行っている生成AI研修でも、ChatGPTと並べてGemini Notebookを扱っています。引き継ぎ資料、所管の規定、よく参照するマニュアルを読み込ませて、自分専用の「聞ける資料集」にする。答えの出どころが資料のどこかを確かめながら使う。この使い方なら、環境が許せばすぐに始められます。
そして、この段階で「探す時間」がかなり減る職員は少なくありません。ここで満足できるなら、構築は要りません。「聞ける形にしたい=チャットボットを作る」と短絡しないことが、最初の判断です。
分かれ目は「個人か共有か」ではない
以前は「自分のために使うならGemini Notebook、部署で共有するなら構築」と説明していましたが、この線引きは正確ではありません。Gemini Notebookのノートブックは他の人と共有することもできます(共有できる範囲は、組織のGoogleワークスペースの設定によって決まります)。共有できるかどうかで分けると、判断を誤ります。
見るべきは、次の4つの条件を標準の機能で満たせるかです。
- 利用者は誰か。 同じ部署の職員数名で使うのか、学生や教員のように自分たちの外の人に窓口として使ってもらうのか。後者は、聞き方も答え方も設計が要ります
- どこからアクセスできるか。 学内からのみに限るなど、公開範囲を組織として管理する必要があるか
- 文書の更新は誰がするか。 規定が改定されたとき、読み込ませた資料を誰が差し替えるのか。使う人=管理する人なら困りませんが、窓口になると更新の担当が要ります
- 答えの範囲をどう決めるか。 何を答えてよく、答えられないときにどこへ案内するか。問い合わせ対応まで担わせるなら、ここが仕事の本体になります
4つとも標準の機能と運用の工夫で足りるなら、構築は不要です。標準の機能では満たせず、「組織として決めて、仕組みで担保したい」条件が1つでもあるなら、構築を検討する段階です。
構築が要るのは、こういう場合
事例の話に戻ります。先ほどの財務会計の事例では、財務会計と財務会計システムの使用に関わる規定・マニュアルをほぼすべて読み込ませ、学内からのみアクセスできる形で構築しました。別の私立大学では、学生課への問い合わせと教員から事務への問い合わせに、受け手ごとに分けたチャットボットで答え、英語や中国語などの外国語にも同じ内容で応答できるようにしています。
ここまでが、事例として確認できる事実です。この2つの案件で既製のツールとどう比較したかは、ここでは書きません。書けるのは、利用者が構築した本人ではないことと、アクセス範囲と答える範囲を組織として決めていることが、どちらの事例にも共通しているという点までです。これから判断する方が見るべきなのは、上の4つの条件を標準の機能で満たせるかどうかで、事例の形をなぞることではありません。
なお、どの事例でどのツールを使ったかは、ここでは書いていません。構築にはNotionやDifyなどを、大学の環境と用途に合わせて使い分けています。
教員向けの話は、ここではしていません
Gemini Notebookと学校の組み合わせは、授業や教材づくりでの活用が語られることが多いです。事務局側の活用例も出始めていますが、この記事で書いたのは規定、マニュアル、引き継ぎ、問い合わせという事務局の話に絞っています。授業での活用が進んでいる学校でも、事務局側は手つかずのことが多く、効果が見えやすいのはこちらだと感じています。
まとめると
- 「探す」を「聞く」に置き換えることは、もう特別な投資ではなくなった
- 標準の機能で足りる場合はある。 自分の資料を自分のために聞く使い方は、今日から始められる
- 分かれ目は「個人か共有か」ではなく、利用者・アクセス範囲・文書の更新・答えの範囲を標準の機能で満たせるか
- 標準の機能では満たせず、組織として仕組みで担保したい条件が1つでもあれば、構築を検討する。無ければ、作らない
コントランでは、大学・学校法人のチャットボット導入支援として、構築が要るかどうかの判断から一緒に行っています。「作らなくてよい」という結論も含めて、対象の文書が決まっていない段階でご相談ください。
