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学校の生成AIガイドラインは、作っただけでは動かない

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執筆 村松 功規コントラン株式会社 代表取締役

学校で生成AIの話になると、まず出てくるのが「ガイドラインを作らないと」です。文部科学省のガイドラインがあり、他校の公開例もあるので、文書を作ること自体は難しくありません。

難しいのはその先です。起こりやすいのは、文書と実際の利用が分かれていくことです。ガイドラインは配られたが、日々の業務では開かれない。一方で生成AIそのものは、個人の判断で使われ始める。文書があることと、組織として安全に使えていることは、別の状態です。

なぜそうなるのか。禁止事項を並べた文書は、「使わない理由」の文書になるからです。読んだ人が分かるのは「使うと面倒だ」ということだけで、業務がどう変わるかは書いていない。使いたい人は黙って使い、慎重な人は一切触らない。ガイドラインが目指したはずの「組織として安全に使う」から、一番遠い状態になります。

学校の生成AIガイドラインで、本当に決めるべきこと

文部科学省のガイドラインが扱う論点は幅広く、情報の扱いのほかに著作権、公平性、透明性なども含まれます。それらを網羅した文書を作ること自体は、できます。ただ、網羅的な文書が現場を動かすとは限りません。校務で最初に詰まるのは、次の3つです。

1つ目。入れてよい情報の線引き。 生徒・学生の個人情報、成績、答案、健康情報。何を生成AIに入れてはいけないかは、学校ごとに判断が要るところです。ツールの使い方は研修で教えられますが、この線は学校が引くしかありません。逆に言うと、この線が明確になって初めて、「やってみてよい」の範囲を安心して広げられます。

2つ目。迷ったときに、誰に聞くか。 どんなに線を引いても、線上のケースは必ず出ます。そのとき聞ける相手が決まっていれば、現場は止まりません。決まっていなければ、真面目な人ほど「念のためやめておく」を選びます。禁止の列挙より、相談先が1行書いてあるほうが、ガイドラインは機能します。

3つ目。文書の持ち主。 生成AIのツールは数か月単位で変わります。年度初めに作って年度末に見直す周期では追いつきません。誰が更新するのかが決まっていない文書は、作った瞬間から古くなっていきます。

公開されている良い例——慶應義塾のガイドライン

良い設計は、すでに公開されています。慶應義塾が一般公開している「生成AIの利用ガイドライン」です。大学の例ですが、考え方は小中高でも、学校法人の本部でも、そのまま移せます。

まず、禁止から始まっていません。冒頭にあるのは「リスクを正しく理解し、積極的に活用しましょう」で、組織として契約したAI——Gemini、Gemini Notebook、Notion AI、Microsoft 365 Copilot——という安全に使える経路を先に示しています。線引きも一行の禁止ではありません。ツールを契約形態で4つに区分し、情報の種類ごとに入れてよい範囲を変えています。マイナンバーを含む特定個人情報は組織契約のAIにも入れない、要配慮個人情報は匿名化などの加工をしてから、という段階の付け方です。

見逃せないのが、共有範囲という論点です。学内のドライブやNotionと連携するAIは、使う人のアクセス権の範囲で資料を参照します。つまり、必要以上に広く共有されたファイルは、本来見る必要のない人のAIからも参照され得ます。「何を入力するか」だけでなく「何が共有されているか」まで、線引きの対象が広がっているわけです。

そしてこの文書は、PDFではなく更新されるウェブページとして公開され、時点(2026年7月時点、と明記されています)と改訂履歴が付いています。「配って終わりの文書」ではなく「持ち主のいる、生きたページ」として運用されている。先ほどの3つの決めごとが、そのまま形になっている例です。

文書だけでは、行動は変わらない

もう1つ、順番の話があります。ガイドラインを配ることと、使えるようになることは別です。

私たちが私立大学で行った職員向けの生成AI研修は、「AIをどう使えばいいか分からない」という声から始まっています。この「分からない」は、文書では解けません。実務の形で触って、自分の業務のどこで使えるかが見えて、初めてガイドラインの線引きが意味を持ちます。全4回の研修をアーカイブとして残し、参加していない職員も後から学べる形にしました。詳しくは職員向け生成AIリテラシー研修に書いています。

順番としては、完成版を待つのではなく、最低限の暫定ルールを決めたうえで、対象を限った業務から研修とセットで使い始めて、実態に合わせて線を直していくほうが、結果として守られる文書になります。

児童生徒の利用と、職員の利用を分ける

学校の生成AIの議論は、授業での利用——児童生徒に使わせるかどうか——に集中しがちです。それは大事な論点ですが、校務での利用は別の話で、線引きもリスクも異なります。授業側の結論が出るのを待って、職員側まで止めてしまうのはもったいない。校務のどこから使うかは、校務DXは、何から手をつけるのかにも書きました。

まとめると

  • 禁止事項を並べたガイドラインは「使わない理由」の文書になり、実態と乖離する
  • 決めるべきは、入れてはいけない情報の線引き・迷ったときの相談先・文書の持ち主の3つ
  • 文書と研修はセット。小さく使い始めて、実態に合わせて線を直すほうが守られる
  • 児童生徒の利用と校務の利用は、分けて考える

コントランでは、ガイドラインのひな型を含む学校の生成AI導入・定着の支援を行っています。文書だけ作って終わりにしない形で設計します。

まずは、現在の課題をお聞かせください。

取り組むテーマや支援内容が固まっていない段階でもご相談いただけます。